【レポート】アトブレ会議オンライン with 三田村光土里さん

EventNews 2020年10月25日

 

 

アート&ブレックファスト Day in 天神山

オンライン会議レポート

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開催 2020年9月22日

出席 三田村光土里さん(アーティスト) 小田井真美(AIRディレクター) 五十嵐千夏(スタッフ)

報告 五十嵐千夏(スタッフ)

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 2016年の初開催以来、さっぽろ天神山アートスタジオの第三日曜日を盛り上げてきたイベント「アート&ブレックファストDay in 天神山」、通称アトブレ。アーティストの三田村光土里(みたむら みどり)さんによるアートプロジェクト「アート&ブレックファスト」の天神山アートスタジオ版で、当館の滞在アーティストと地域の皆さん、そしてスタッフが、朝の食卓を囲みながらアートや地域のあれこれを持ち寄る集いです。天神山では、アーティストによるそれぞれの活動や作品についてのプレゼンテーションや、皆でごはんを持ち寄りシェアするポットラック形式が定番でした。

 そんなアトブレ、2020年はじめに新型コロナウイルス感染症拡大に伴いしばらくお休みしたあと、6月からは遠隔アーティストトークを中心に、オンライン会議サービスZoomやYouTubeのライブ配信サービスを使った新たな開催方法を模索してきました。こうして、これまでにない状況や道具を取り入れるうち、私たちが感じ始めていたのが「新しいやり方でも、もっと“天神山のアトブレらしさ”を活かしたい!」ということでした。

 思えばこれまでの天神山のアトブレが成立していたのは、いつもお手製の一皿をシェアしてくれる地域の方や、タイムリーに滞在中の活動を紹介してくれるアーティストの皆さんとのフラットな関係が成立していたから。しかし、手づくりの料理を振る舞うことやアーティストの移動・活動の一部が難しくなった現在、こうした“天神山のアトブレらしさ”は、恋しいながらも手の届きにくいものとなっています。

 そこで、「これからの“天神山のアトブレらしさ”はどこにあるのか?」「そもそも新型コロナ対策下でアート&ブレックファスト自体のアイデンティティがどう成立するかを知っておくべきではないか?」という疑問に行き当たった私たちは、天神山のアトブレの発端となったアートプロジェクト「アート&ブレックファスト」の生みの親である、アーティストの三田村光土里さんに相談してみることにしました。

 ここからは、そんな経緯で9月22日に開催された、三田村さんを交えてのミーティングの様子をダイジェストでレポートします。アトブレのエッセンス、天神山での今後の展望、オンラインでの手法開拓など、現状に即したアトブレ像とその実現のための方法について、三田村さんと当館AIRディレクター小田井がざっくばらんに探ります。

 

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集まれないから、アーティストトークをライブ配信にしてみたら…

三田村 いま東京で小さい展覧会をやっていて、収録でトークを撮ったんです。親しいキュレーターと作家との3、4人のトークで、写真についての展示だったので話題も大体そんなかんじだったんですけど。そのときキュレーターと昔話をしたんです、どうして作品を作り始めたのかとか。最近の若い子からの質問もとてもストレートだから、そういうことは話しとかないといけないな…と、最近すごく思いました。そしてそれを収録して、記録しておく。

小田井 オーラルヒストリーですね。

三田村 そうそう!

三田村 最近はコロナのこともあって配信のトークとか多いじゃない。これだと、ライブじゃないから、ゆっくり、落ち着いて話せる。今までは、“見にきて見にきて!”っていうものが中心だったけど、配信だと、時間も考えずに(ひととおり撮影して)あとで編集してやればいいから。そういう対話のような時間をやっていくのはおもしろいな、って思いました。

小田井 それは(アトブレじゃなくても)ほんとにやりたいな…!

三田村 地元の、今までアート&ブレックファストを一緒にやってたような人たちとは、もうぜったい対面では会えない?

小田井 地元の人たちは、徐々に戻ってきそうな気がしていて。おとといもシフトで留守番していたら、電話があって、“アート&ブレックファストって今もやってるんですか?”って問合せがありました。感染予防を気にするあまり、深刻に考えてたけど、これまでに近いフォーマットで再開するのもいいかな…とも思い始めています。

 

“気を散らしながら”アーティストの話をきく、ちょうどいい緩やかさ

 私は新型コロナのあと、“食べつつしゃべる”という状況をつくれないことがショックだったんです。だったら時間をずらして、朝食じゃないにしてもなにかを一緒に食べながら、たまたま天神山にいる作家の話をきくとかもいいのかな…と思いつつ。アーティストの話を、気を散らしながら聞くことのちょうどよさが大事だったんだな、と。

三田村 うんうん、なるほど。まさにそうですよね。私も、もともとは、ゆるやかなコミュニティのあり方というか、コミュニケーションのあり方というか、他人同士でも気軽に顔をみて話せる雰囲気のある場所っていうのがあったらいいな…というかんじで始めたので。展示のオープニングパーティーとかだと紹介してもらわないと話しづらいけど、そうじゃない“地元感”みたいな。地元のお祭りの、なんかちょっと近所でごはん出してるような場所で、通りがかると誰でもしゃべれる、みたいなかんじ。そういうしゃべりやすいムードが、朝食イベントにはあるなと思ったんです。そのゆるやかさが大事なのであって、朝食そのものが、必ずしも朝の時間帯にきっちりおさまらなくてもいいんですよね。型に決まりはないので。

 

日本では「食のイベント」、ヨーロッパでは「話すイベント」

五十嵐 時代や場所によって、参加者のアート&ブレックファストの受け止め方が違うな…と思われる場面はありますか?

三田村 場所やシチュエーションが本当にいろいろなので、なんともいえない…でも、(開催される)国によっての違い、みたいなのはちょっとありますね。それは、文化の違いなんですけど。日本では、美術館などの企画側が「食のイベント」をすごく期待するんですね。食を通して人と(アートを)つなげるということに、特に日本の場合は重きを置くところがあって。札幌(天神山)ではゆるやかに、いい感じで(アトブレが毎回)はじまるけど、他の会場は一斉に掛け声がかかるのを待っている。みんなが揃ってから食べ始めないといけないんじゃないか、みたいな遠慮があったりして。食に対するリスペクトと存在感が大きすぎて…。でもそれはそれで、それが日本のたのしみかただから、それでいいかなと。日本人は凄く食を大事にするから。で、ヨーロッパとかイギリスだと、日本ほど食にこだわりがないっていうか。朝ごはんのスタイルが決まっているじゃないですか。毎日同じもの食べるし、朝から鮨は食べたくないし、スープも飲みたくない、あったかいものとかも。アトブレでも食べ物自体に期待していなくて、コーヒーさえあって人と話せるなら十分、という感じ。

小田井 でも、“しゃべる”ってことも日本では難しいところあるじゃないですか?いきなりしゃべる、みたいなことが

三田村 だからこそ、食がそこをものすごく繋いでくれるんですよ!あいちトリエンナーレのプレイベントとして2015年にやったとき、新聞とかウェブサイトで募集した知らない家族同士に集まってもらったら、けっこう堅苦しい雰囲気になっちゃって。(募集人数は)限定20人以下だったと思うし、(実際の参加人数は)15~6人だったと思うけど、それに対してトリエンナーレのスタッフと、ワークショップで10人くらいの高校生が来てたので、15~6人のお客に対して20人くらいで待ち構えるかんじになっちゃった。でも食べ始めたら、全然喋んなかった家族が一斉に喋り始めて。食べることで緊張が一気に、知らない人たち同士のボーダーが…。それまで何をしゃべったらいいのかわからないみたいな感じだったけど、堰を切ったように(話し始めた)。十和田市美術館のカフェでやったときも、参加者同士はほとんど知らないけど、アート好きな奥様たちが多くて。普段(展示を)観に来てても来場者同士ではしゃべらないから、アートの話ができるっていうだけですごい盛り上がっちゃって。美術館に来てるアートファンと喋れることって、ふだんないから。食があることでそれをつなげられたのかなって。だから日本では、食がメインになっていいんでしょうね。

小田井 なるほどなあ。

三田村 それと、去年12月に茨城の県北の交流プログラムをやったんですけど。北茨城に一か所古民家があって、すみちゃんという地元のおばあさんがいるんです。そこに滞在しているアーティストがイベントのたびに、すみちゃんを巻き込んで豚汁とか、なにか手づくりの食事を振る舞ってくれるんですよ。北茨城の中でも特に人里離れた、ほんとに限界集落に近いようなところなんだけど、やっぱりそこで、アートと食を通じて繋がれてるコミュニティがひとつ出来上がっていて。おもしろかったですね。

小田井 それでいうと、天神山には、車で一時間半くらいかかるところからアトブレに毎回来てくれる常連さんがいた。ほとんどしゃべらないけど、ごはんをつくるのが好きみたいで、自分で作っては持ってきてくれて、それをみんなで食べるっていうことがすごいよろこびなんですよね。その人はまさに、“自分のごはんでコミュニケーションする”タイプの人だったな~。

 

アトブレのアーティストトーク、遠隔になると「なんか違う…?」

小田井 天神山ではアーティストが自分の話をするっていう時間を皆(市民の皆さんが)めちゃくちゃ楽しみにしてくれていたんです。でもオンラインでそれをやったら、ただのレクチャーみたいになっちゃった。じゃあ、アーティストトークとアートアンドブレックファストを一緒にやるのは、なんか違うのかな?って思い始めて。

三田村 たしかに、集まらなきゃってなると、そうなっちゃいますよね。オンラインで参加するにしてもあまり集中しすぎない状態にしておかないと…ずっとモニターの前にいるのが基本になっちゃうから、“今ちょっと話聞いてなかった…”ってなっても気まずいし。やっぱり縛りがありますよね。画面の向こうが一人だと、こっちも画面に集まらなきゃ、って思っちゃう

 

オンラインだからこそできる“つながり方”

三田村 縛りすぎない形としては、アトブレをいくつかの場所で同時開催してたとき、今みたいに各会場をZoomで繋げたりはしないけど、ゆるやかに各スペース同士が繋がっているっていうイメージはなんか、考えたことがあって。別に参加し合って喋んなくてもいいんだけど、そういうことでなんか出来たりしないかな、とかね。ドイツの友達は、朝食たべながら“エンジェルをテーマにしたものを作ろうよ”って言って、勝手にそれぞれ午前中に集まってアパートでオブジェみたいなのつくるワークショップしてたり。コロナのことを考えると、どこまで集まっていいのか、一人一部屋じゃなくちゃいけないのか、とかはちょっと分からないんだけど。活動を結ぶ、活動する場所を結ぶ、というのは悪くないんじゃないかな。

小田井 なるほど。すごいゆるく、はじめと終わりだけ作っといて、天神山のZoomという場の中に自分の時間を重ねてもらう、みたいなことをやってみるのもいいかもしれないですね。

三田村 そうですね。それと、私が非常勤講師を務めている大学では、Zoomのブレイクアウトルームを使ってルーム間を移動できる権限を、生徒含め全員が持っていて。全員が、気になる講師の部屋を自分の意思で出入りできるんです。

小田井 なるほど~。どうせならオンラインツール使い倒したいですね!

三田村 あと、私もいま気がついたんですけど、“みんなで集まってても隣同士の二、三人としゃべれる感じ”がきっと楽しいんですよね。だけど、それが大勢のなかにいる隣の二、三人だからすごい話しやすいのであって、二、三人だけで集まったらまたちょっと、緊張するじゃない。そのスタイルがZoomのブレイクアウトルームでうまいこと築ければいいのかなって、ちょっと思ったりしたんだよな…

小田井 うんうん。私もコロナのことが起こってから、国内の日本のレジデンスの人たちと、定期的におしゃべりする機会をもうけたいねって話してて。そういうのも一緒に招いてもいいかもって思った。アートアンドブレックファストの枠の中で、ほんとに勝手にしゃべるみたいな。あと、オンラインでやるときの“場所の制約のなさ”は、せっかくだから活かしたいなと思いますね。

 

オンラインならではの参加しにくさを解消したい!

小田井 あとは、どうしたらみんながいやじゃなくて(プライバシーの問題などを気にせず)オンライン上に集まれるかなあ、って。それで考えたんですけど、自分が食べてるごはんだけ映す、みたいな。画面に色んなダイニングテーブルだけ映ってるっていうのも、悪くないよなって。

三田村 それでお題もあれば、グループになったとき見せ合いっこしやすいですね!オンラインミーティングで発言するのって、こわいもんね…私もこの前、オンラインセミナーみたいなところで名指しで“三田村さんはどう思いますか?”って突然訊かれて、緊張が走っちゃった(笑)なおかつ、はじめましてでも話しやすい、見せやすいお題があるといいかもしれないですね。画像とかもね。

 

最後に…

小田井 三田村さん、今日は本当にありがとうございました。(天神山でのアトブレは)すっとやれてたからこそ、あまりに考えなしにやってたというか、やっちゃってたので…ほんとに改めて考えられたなと思いました!

三田村 いやあ、本当に大変ですよね…。ありがとうございました。

 

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以上のような三田村さんとのミーティングを通し、当館でのアトブレを今一度見直した私たちは、今後の「アート&ブレックファスト DAY in 天神山」について次のようなことを改めて確認しました。

 

・天神山のアトブレは、アーティストと市民の交流の場であること
・アーティストの活動に関心がある一般市民の参加を交えること
・開催のタイミングは、アーティストの滞在状況等にあわせて決定すること(状況によっては開催しない月もあり)
・館内開催だけでなく、オンラインでも開催可能な状況を整えておくこと(感染症拡大対策)
・オンラインツールを使う場合、参加者間での双方向コミュニケーションを行いやすいツールを選ぶこと
・アーティストとの交流は、アーティストトークや作品紹介に限らず、アーティストのモチベーションと状況に応じたさまざまな手法(ワークショップなど)で行われること
・一般の方にご参加いただきやすいよう、日曜日の午前中に開催すること
※なお、最新のイベント情報は、当館ウェブサイトやSNS、館内告知にて随時お知らせいたします。

 

札幌も11月に入り感染件数が再び予断を許さない状況になっていますが、外出や直接の対面を控えつつの交流は、各地でしばらく続きそうな予感。かっちりとしたアーティストトークやテーマの決まったウェビナーもいいけれど、ふらっと立ち寄れば(ときにははじめて出会う)アーティストがいて、参加者どうし気張らずに日々のちょっとした話を分かち合える…そんな肩の力が抜けたオンラインイベントも、あっていいのではないでしょうか。

そんなわけで、天神山のアトブレは11月より再開いたします。今までよりもゆったりと、参加者同士での会話を楽しんでいただける集いになりそうです。どうぞお気軽に、ご参加くださいませ。

 

(五十嵐)