【レポート】札幌の制作現場を紹介する!Art & Breakfast Day with 天神山_2021.12.12

ActivityEvent 2022年1月4日

 

 

市民とアーティストが週末に朝食のひとときをシェアする、当館おなじみのイベント、アート&ブレックファストDay(通称アトブレ)。

アーティストの三田村光土里さんが考案した「誰でも主催できる」アートプロジェクトの仕組みを利用して、当館では2016年から開催しています。

コロナ前は、天神山アートスタジオに参加者が集い持ち寄った料理を分け合うポットラック型朝食と、アーティストから市民への活動プレゼンテーションを主軸に開催。2020年度からはオンラインなどの新たな方法も探りつつ、引き続き、市民とアーティスト/アートとの出会いや交流を準備しています。

 

そんなアトブレ、2021年の年の瀬に最新回が開催されました。テーマはずばり札幌の制作現場を紹介する!

札幌近郊で創造的な活動をしている/支えている拠点、すなわちアーティストのスタジオ、レジデンス、共同スタジオなどから計9組のプレゼンターを迎え、当日はYouTubeライブ配信と天神山アートスタジオ公共スペース、なにかにつけて協働しているご近所「南平岸」のみなさんを代表してゲストハウスOYADOのカフェの2箇所で、一部始終を一般公開しました。この記事ではテキストで当日の様子を振り返ります!

動画アーカイブ(YouTube)はこちら!

 

〈イベント情報はこちらから ↓ 〉

札幌の制作現場を紹介する!Art & Breakfast Day with 天神山_2021.12.12

 

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プレゼンター(敬称略、発表順)

    1. Guesthouse OYADO SAPPORO
    2. 0地点
    3. naebono art studio
    4. CoSTEP(北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター)
    5. NEVER MIND THE BOOKS 
    6. 平尾 拓也 
    7. NPO S-AIR
    8. 札幌文化芸術交流センターSCARTS テクニカルスタッフ
    9. Think School 編集部
    10. SIAFラボ&SIAF部

 

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1.Guesthouse OYADO SAPPORO ―女将 よしえさん

 

 

トップバッターは、2019年にオープンした南平岸のゲストハウス、OYADOさん。当館の地域交流担当スタッフ小林を伴い、女将よしえさんが併設カフェからライブ中継で参加してくれました。

ご近所さんのよしみで平時からお世話になっているのはもちろん、アーティストの急な来札に天神山が対応できない場合には、こちらの宿を提案することもあります。

さらに、商店街振興組合の理事でもあるよしえさん。天神山文化祭などの地域連携プログラムでは、心強い協力者として頼りにさせてもらっています。昨年度は「天神山 World Recipe」企画の一環で、過去滞在アーティストのマドゥ直伝「チャイ」をOYADOさんのカフェにて再現提供してもらうコラボも実現しました。

遠方から札幌を訪れる方はもちろん、地元の方も、アットホームな雰囲気で迎えてくれるお宿です。

 

(↑ OYADOさんでのアトブレ風景。カフェバーのあたたかい照明にほっこり。)

 

2.0地点 ―櫻田 竜介さん、堀江 理人さん

 

 

0地点は、2021年にスタートしたばかりの共同アートスタジオです。

現在は若手のアーティストおよびアートを通じたさまざまな実践を志すメンバー6名が集まり、おおむねDIYで苗穂の古民家(築95年!)を改装中。個人のスタジオとしての利用を第一目標に、メンバー間の交流用スペースや一般に開かれたギャラリーも併設予定とのことです。

2021年夏には、のちほど登場するイベント「NEVER MIND THE BOOKS」にてオリジナルzineを制作販売。気になる内容は、こけら落とし展示の前日譚としての誌上展覧会というもの。2022年度のオープンスタジオと展示開催めざして準備中とのことで、引き続き要注目です。

 

 

3.naebono art studio ―進藤 冬華さん

 

 

0地点からほど近く、ピンク色がまぶしい大きな共同アトリエが、naebono art studioです。

2017年に元缶詰工場を改装してスタートし、現在13組が入居中。個別のアトリエでの制作・活動はもちろん、フリースペースでも展示や演劇上演、大規模作品の制作が行われています。入居者の年齢層が幅広いこともnaebonoの特徴のひとつ。コレクティブではなく、個々の活動主体がそれぞれで場所を借りる、という仕組みになっています。

また、入居者と別に管理人を置いて施設管理を一任することで、入居者はそれぞれの活動に専念でき、入居者間の摩擦も避けられるのだそう。管理人である荒岡さん、入居者でアーティストの今村育子さん・高橋喜代史さんがスタジオを紹介した北海道マガジン「カイ」の記事も必読です。

 

 

4.CoSTEP(北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター) ―パク・ヒョンジョンさん

 

 

札幌市中心部に位置する北海道大学。学内に芸術実技の教育研究に特化した部門はありませんが、科学技術コミュニケーションの教育研究機関「CoSTEP」では、アーティストを教員として迎えたり、アーティスト・レジデンシーを実施したりと、こんにちの芸術と密接にかかわる活動が展開されています。

同センターで特任講師を務めるアーティストが、パク・ヒョンジョンさん。パクさんは、科学技術コミュニケーター(=CoSTEPの学生)が各々の視点から〈科学―社会〉の接点を考えるためのきっかけづくりを試みるとき、現代美術との接触が何か「おもしろいこと」を生みだせるのでないかと考え、日々教育研究を行っています。

学生には科学と芸術の共有領域で制作を試みてもらったり(「クマの遺伝子情報を音に変換する」作品、気になります)、現代美術の展覧会鑑賞に飛び込んでもらったり(あいちトリエンナーレ2019など)。パクさん自身も、北海道大学を舞台に《アノオンシツ》や《植物と居場所 vol.1 苔の息》といったプロジェクトを展開しています。

 

 

5.NEVER MIND THE BOOKS ―菊地 和宏さん、小島 歌織さん

 

 

グラフィックデザイナーの菊地さんと小島さんが企画運営を行う市内開催イベント、通称「ネバマイ」(2011年~)。

年に一度、DIYアイテムや自費出版冊子の制作者が会場に集い、一般向け販売や、プロアマの垣根を超えた制作者間交流を行います。近年はさっぽろテレビ塔を会場としています。

自らもデザイナーとして制作に携わる菊地さん。普段なら作り手に徹しがちな出品者が売り手をも担う仕組みによって、出品者にもお客さんにも「刺激のあるイベントに」なっているといいます。

2021年度の来場はのべ約500人。2021年度は市内外からの出品応募があり、先述の0地点、そして後述するThink School編集部の母体・Think Schoolの皆さんも参加しました。誰もが作り手、売り手として気軽に参加応募できる点も、ネバマイの特徴です。

 

 

6.平尾 拓也さん 

 

 

平尾さんは、舞踏、コンタクト・インプロビゼーション、演劇との関わり、という三領域で活動中のダンサーです。

なかでも字面からはどんなものか想像しにくいのが、舞踏。「裸ひとつ、身ひとつで踊る」というこの領域で、平尾さんはグループ「極北会」の一員として道内各所で公演を行ってきました。また、接触から踊りを編み出すコンタクト・インプロビゼーションの領域では、2022年1月にユニット「Mathilda」のメンバーとして公演を行う予定です。

スタジオには所属していないという平尾さん。周りの若手ダンサーをみていても感じるのが、個人としての練習場所と公演場所の確保の難しさだといいます。経済的なハードルは簡単には解消できないながらも、1月の公演会場でもある東洋カメラハウスは、さっぽろ駅近くという立地も伴って貴重な公演場所となっているそうです。

 

 

7.NPO S-AIR ―萩谷 海さん

 

 

S-AIRは、札幌ベースの老舗アーティスト・イン・レジデンス(AIR)です。これまでレジデントとして迎えたアーティストは100組超。先述のnaebono art studioの一角に運営拠点を構えながら、コロナ以後は国内外在住のスタッフが原則リモートで運営を担っています。

レジデンスにもさまざまありますが、なかでもS-AIRは、ことアーティスト滞在用の決まった施設を持たない団体です。1999年の活動開始以来、20年以上にわたり、時々の状況やスタッフ、アーティストに合わせてフレキシブルにプログラムを展開してきました。

現在はオンラインでのリモートAIRで2名の海外在住アーティストを招聘しながら、「AIRマスタークラス連続講座」という人材育成事業も実施中。連続講座では、〈ポストコロナと滞在制作〉というテーマを国内外のスピーカーを交えて深めていくそうです。

 

 

8.札幌文化芸術交流センターSCARTS テクニカルスタッフ ―山田 大揮さん

 

 

札幌市都心部に位置する札幌市民芸術交流センターSCARTSは、新しい表現の積極的な紹介をミッションの一つに掲げています。つまりSCARTSで展示を行うアーティストにとって、高度に専門的なレベルでの未知との遭遇は避けられません。ということで、同センターにはアーティストのための実務サポート集団「テクニカルスタッフ」が存在します。

山田さんはその一員として、同センターの主催事業を中心に数々の展覧会を支えてきました。具体的には、展示会場に適切な仮設壁や床面補強を設計・設置したり、制作の段階で相談を受けつつアーティストと共にメディアアート作品の設計をしてきたそうです。

音響・照明機材一式はもちろん、マイクロコンピューター、レーザーカッターや3Dプリンタも揃うSCARTS。テクニカルスタッフは、主催事業以外でも、相談レベルであれば問い合わせには基本的に対応したいとのこと。制作で路頭に迷ったときには、えいやっと相談してみましょう。

 

 

9.Think School編集部 ―今村 育子さん(札幌駅前通まちづくり株式会社)、ウチダ リサさん、わたなべ ひろみさん

 

 

アートとまちづくりの学校「Think School」の卒業生と在学生が交流・発信を行う場として、2020年に誕生したのが「Think School編集部」です。

その特徴の一つは、”アートやまちづくりに親しんではきたけれど、「専門家」とは違うかも…”という卒業生たちの視点から湧き上がる、率直な疑問や好奇心を指標とした企画立案。 前身の「シンクチーム」では、独自のアート鑑賞用指南動画の制作をアーティストに依頼し地下歩行空間で上映したり、美術史家や編集者のレクチャーを開催したり。コロナ後、主にオンラインの「編集部」になってからは、全国各地の卒業生にその後の活動についてインタビューも行っています(レポートは編集部noteへのリンクから)。

シンクチームを経て現在編集部員のわたなべさんによれば、noteでの文字ベースの発信から、今後はより双方向的な場づくりへの展開も考えているのだそうです。

 

 

10.SIAFラボ&SIAF部 ―漆 崇博さん(札幌国際芸術祭事務局マネージャー)

 

 

2014年にスタートした札幌国際芸術祭(SIAF、サイアフ)。開催は3年に1度ですが、会期外の長い時間も市民とSIAFとの関わりをあたためてきたのが、SIAF実行委員会事務局による2つの活動「SIAFラボ」と「SIAF部」です。

SIAFラボ(2015年~)では、SIAFの大きなテーマ「都市と自然」を、概ねメディアアートの制作を軸として継続的に探究しています。現在は3つの柱、すなわち「研究開発」(リサーチ&ディベロップメント、R&D)、アーティストへの依頼という形でのアートプロジェクトの実施、アートの専門人材育成、をメインに活動中。プロのアーティストや、高いレベルで実践的にアートを学びたい人が集まっています。

一方のSIAF部(2018年~)では、活動を通してアートの楽しさを知り、周囲に伝えることを部員の最重要任務としています。こちらには、情報発信や鑑賞を通じてSIAFや芸術一般と市民とを接続する方法を考えたい市民が集まっています。これまで、SIAFラボが関わる展示での鑑賞ガイドの企画・実施など、実践的な活動が展開されてきたようです。

 

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終わりに

 

アマチュアからプロまで、そして現地開催のイベントからオンライン中心の活動まで…。今回のアトブレでは、さまざまなレイヤーで活躍中の実践者の皆さんが、主に市内での創造的活動の現場をご紹介くださいました。

まずは異なる状況やライフステージにある実践者たちが集まってこそ共有されえた、制作発表や他の実践における悩み、そして強みが、今後の各活動のいっそうの充実へとつながれば、と淡い期待を抱きます。

そして、オンライン含め、活動拠点や発表の場に言及されたプレゼンターもいらっしゃいました。興味深いことに、今回示された活動場所のマップは絶え間なく変化しています。機会があれば皆さんもぜひ一度(と言わずに何度でも)、ご自身の足で、まだ見ぬ創造的活動の現場を探検してみてはいかがでしょうか。

(天神山アートスタジオ スタッフ 五十嵐)

*動画版アーカイブはこちらをクリック!ラジオのようにお楽しみくださいね!!

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地域との交流事業「アート&ブレックファーストデーwith天神山」

主催:札幌市

協力:南平岸商店街振興組合、まちづくり会「いきいき南平岸」、Guesthuse OYADO SAPPORO

企画:さっぽろ天神山アートスタジオ