【リポート】冬の恒例、国際公募AIRプログラム、今年も元気に開催中です。
昨年秋の国際公募選考で選ばれた2人のアーティスト、ヒジュン・チェと、アーロン・マクラフリンの2人が、2020年11月18日から3月5日まで100日間のプログラムに参加しています。
ふだんの天神山なら今頃は、リサーチや制作でアーティストたちが冬の札幌を駆け巡り一番賑やかな時期。けれど今年は、新型コロナウイルスの影響を受けて、2人はリモート(遠隔)によるレジデンスプログラムにチャレンジしています。
ヒジュン・チェは韓国ソウル在住。1987年生まれのソウルっ子です。パフォーマンスによる映像作品やドローイングによるインスタレーション作品などで表現しています。今回は、ソウルか韓国国内のどこかで、紙ひこうきを飛ばしながら紙ひこうきの進むままに移動する、という詩的なアイデアを持って参加しました。
アーロン・マクラフリンは、アイルランド生まれ、アムステルダム在住。ヨーロッパ圏内で日本人移住者(滞在者)がもっとも多いデュッセルドルフ、パリ、ロンドンの3都市で日本人にインタビューをし、それを元に日本の漫画家とコラボして漫画をつくるというプランと、ロボットLoomoがアーティストの相棒として札幌へ代理でやってくるかも?という2つのプランをたてました。
「立ち止まったり寄り道したり、普段とは違う今だからこそ新しいヒントをいっしょに見つけたい。」
そんな思いとともに手探りで始まった今年のレジデンスプログラムは、いつでもモニター越しに「ハロー!」です。
リモートレジデンスの最初のハードルは、まずどうやってお互いのことを知り信頼を築けるかというコミュニケーションにありました。
アーティストインレジデンスは、その土地や人との出会いによって考えが深まることもあれば、思わぬ出会いから突然アイデアが飛躍して、当初の思惑とは全く別のところに帰着することもある――そんな旅するような体験が醍醐味です。そんな豊かなレジデンスの日常を、どうやってオンラインで展開できるか。リアルな体験には及ばなくても、あれこれと知恵を絞り、巷のコミュニケーションツールをいろいろ試しながら、オンラインでのコミュニケーションの試行錯誤は続きました。
コミュニケーションのベースは、週1回の個別ZOOMミーティングとSlackでの日頃のやりとり。また、毎水曜日夜に滞在アーティストがチャットする水曜シェアリング、月1回ゲストを招いたフリートーク、アート&ブレックファストなど、コロナ以降オンラインで続いている天神山のゆるいプラットフォームも活用しました。さらに、VRによる天神山バーチャルツアー、dropbox Paper、gather town、オンライン飲み会など、いろんなことをやりました。今回のコーディネーター、千葉麻十佳さんも毎回奮闘しました。(彼女は札幌在住のアーティストで、天神山で「太陽がなくなったら」ワークショップを開催中です。
そうこうしながら日々を重ねるうちに、次第に互いの国のコロナの状況や政治、家族、アニメ、漫画、食べ物といった雑談に花が咲く時間も増え、プレゼントも行き来し始めました。(モノは自在に移動できますので)
バーチャルなやりとりにも徐々に負荷を感じなくなって、次第に彼らのプランも深まっていきました。
国際公募AIRプログラムに参加して、札幌に来れないけれど、それぞれの場所で札幌とつながりレジデンスを行っていた2人のアーティストは、どのような日々を過ごしていたのでしょうか。
日本カルチャーに詳しく、少し日本語も話せるヒジュンは、毎回オンラインのイベントに参加してくれて、たわいもない会話でも楽しくかわせる気のおけないアーティストでした。またこのプロジェクトに沿って、日々の出来事を綴ったドローイングを送り続けてくれました。そうしたドローイングや会話から、日常の小さな違和感をすくい上げる彼女の眼差しが透けて見えて、はっとさせられる時もありました。
紙ひこうきを飛ばすというアイデアは、その後発展して、ソウル在住の2人の日本人女性が出演する短い映像作品になる予定です。さらに今回、千葉さんがヒジュンに札幌のある場所に関するヒントやルート、千葉さんが撮った画像を送り、それを頼りにヒジュンがその場所をgoogle mapsを利用して見つけるというコラボレーションも行いました。そうして見つけた中島公園の天文台での小さな展示や、大通公園6丁目の野外ステージでのイベントも予定しています。
一方、日本に行くかわりに、ヨーロッパに住む日本人にインタビューして日本を知る、というプランを持っていたアーロンは、Covid-19の第2波が到来したヨーロッパで、各国のゲートがロックダウンで次々閉まっていく中をすり抜けるように移動するさすらい人でした。さらに2021年1月1日にはイギリスがEUから完全離脱、これまで気軽に行き来していたヨーロッパ大陸が遠くなったような、歴史の分岐点を肌で感じる出来事もあったようです。移動と滞在先探しと日本人とのアポイントと8時間の時差のあるオンラインミーティングというなかなかハードなプロセスでしたが、a little fun momentとアーロンは終始前向き(を装ってたのかも?)。
残念ながらロボットのアイデアは諸処の事情で実現できませんでしたが、その分漫画のプランに全力投入。日本の漫画の構造を知るために、日本の漫画講師にオンラインレクチャーを受け、『進撃の巨人』や『東京喰種トーキョーグール』も読みました。現在はコラボレーターとなる札幌出身の漫画家をリサーチ中。ディアスポラとしての日本人に興味を持ち、今回インタビューしたヨーロッパ在住の日本人は10人以上。十何時間にも渡るインタビューと、それを元にした漫画の一端を通して、コロナ下のヨーロッパでアーロンが出会った日本の姿が浮かび上がる予定です。
このレジデンスの成果は3月3日からの展覧会で発表されます。100日間の会えなくて行けないリモートレジデンスは、いったいどこにたどり着いたのでしょうか。オンラインでしか会ったことがないけれど、すでに大切な友人の来訪を待ちわびるような気持ちで日々準備を進めている天神山です。(坂口千秋)
■プログラム成果報告発表のイベント情報はこちら!
主催:札幌市、一般社団法人 AISプランニング
支援:文化庁