[Archive]2020 Annual Report 2020 同時期滞在日本AIR_ニュー浴場プロジェクト

Archive-annual report 2021年5月1日

[プログラムリポート]同時期滞在日本AIR(文化庁:なかなかたどりつかないけど)作成:坂口 千秋

ニュー浴場プロジェクト/永岡 大輔&松本 力(日本/神奈川・東京、日本)

今年度のAIRプログラム「なかなかたどりつかないけど」の国内招聘アーティストには、ニュー浴場プロジェクトとして活動する永岡大輔と松本力の2人を招聘した。彼らは東京⇆夕張の自治体間地域連携モデル事業で2012年夏から2014年初春まで6回に渡って夕張の炭鉱住宅で滞在制作を行い、事業が終了したあとも自主的に夕張に通い続けている。アーティストにとっての夕張とは何か、そして夕張に住む人たちにとって自分たちはどのような存在か、それが知りたくて夕張へ戻ってくる彼らの「終わらないレジデンス」に共感し、さっぽろ天神山アートスタジオも度々プログラムを一緒に行ってきた。

そうしてコロナ禍の2020年。「なかなかたどりつかないけど」というテーマをもらった彼らは、それぞれの住む街から夕張までの移動をまるごとプロジェクトにした。永岡大輔は、山形から徒歩で夕張を目指し、松本力は9年間動かしていない愛車シエラを修理して東京からフェリーで夕張を目指す。そして互いの旅の最後に2人揃って夕張にたどり着こうという計画だった。

12月1日山形の家を出発した永岡は、徒歩で松島、石巻を通って三陸海岸を北上し、12月25日には釜石までたどり着いた。道中、各地で「生きるために必要な技術」を教わり、塩竃ではアーティストの是恒さくらに編む技術を習い、南三陸では地元の人からパンの焼き方を習った。暮れに一度山形へ戻ると、年明け早々に首都圏に緊急事態宣言が発令。旅の再開はしばらく延期し、そのかわり、標高413メートルの千歳山に毎日登り、移動について考え続けた。2月11日、旅を再開。宮古、久慈、八戸を経由して青森へ。青函連絡船で苫小牧へ渡り、3月1日、北海道に上陸。大雪で数日足止めをくらったが、3月7日、最後のトンネルを抜けてとうとう夕張へ到着した。

 と、記せばわずか数行にすぎない旅の経過だが、歩く速度で心身が体験したことの重さは計り知れない。5000枚を超える写真、教わった暮らしの技術、すれ違う人々から託された言葉の数々が日々の記録として残っている。アーティストとして、ここからなにをどのように差し出せるのかを考え続ける。

 永岡の旅については、コーディネーターの花田悠樹が記したブログ『「なかなかたどりつかないけど」同時期滞在日本人AIR 途中経過レポート【永岡大輔】』に詳しい。できるだけ遠回りをしつつ、アーティストという肩書も外して、ただ人間として歩き続けた永岡の思考の変遷が綴られている。

前編 https://ais-p.jp/news/2021/02/21/newyokujo_nagaokadaisuke/

後編 https://ais-p.jp/news/2021/03/31/report2_newyokujo_nagaokadaisuke/

東京に住む松本力が保有する赤いジムニーシエラは、自身が作家活動をはじめた90年代からいつも一緒に活動してきた友だちのような存在だった。この車で夕張に向かうことに意味があると感じ、まずは9年前に動かなくなったままの「友だち」を蘇生させる修理に着手した。一から原因をつきとめ直していく古いクルマの修理は、手がけたエンジニアのメカニック魂を刺激したが、復活は想像以上に困難を極めた。幾多の手続きに時間を費やし、さらに家の事情も重なって、いつまでたっても出発できず、松本は東京を出られなかった。

 動けない時間を、松本は夕張のことを思いながら絵を描いた。想像のなかで、夕張の夜に灯る電柱の灯りは青い花だった。まちのあちこちに咲く青い花が、夕張の未来の景色のように思えた。夕張へ行くという当初の目標を遂行できなかった苦悩の一方で、この青い花が咲く景色を夕張の人にも見せたいと願った。想像をかたちにすることへの希望が湧き、それは必ず実現させたいと考えている。

アーティストの滞在制作はその地域になにをもたらすのか。その問いにアーティストとして向き合い、ゆえに悩み続ける2人にとって、今回は、「なにを現地でするべきか」という重圧から逃れ、改めて自分たちが夕張へ行く意味を考える機会となった。そこにはまた、つくること、分かち合うことの喜びも横たわっていた。遠回りや迷いみちの途中にある無数の発見が、アーティストを豊かにする。なかなかたどりつかないけど、こうしてプロジェクトはまだまだ続くのである。

<スタッフ・リポート(天神山アートスタジオwebサイト)>

「なかなかたどりつかないけど」同時期滞在日本人AIR 途中経過レポート【永岡大輔】  

【レポート】「なかなかたどりつかないけど」同時期滞在日本人AIR_ニュー浴場プロジェクト(永岡大輔)