[Archive]2020 Annual Report 国際公募AIR_Aaron McLaughlin /アーロン・マクラフリン

Archive-annual report未分類 2021年5月1日

[プログラムリポート]国際公募AIR(札幌市、文化庁:なかなかたどりつかないけど)作成:坂口千秋 2021.03.25

Aaron McLaughlin /アーロン・マクラフリン

世界的パンデミックの発生が現実を突如SF世界に変えてしまったような2020年、ヨーロッパを駆け巡るアーロン・マクラフリンの存在は、さながら冒険フィクションの主人公のようだった。Covid-19の第2波が到来し、各国のゲートがロックダウンで次々閉まっていく中をすり抜け、airbnbを渡り歩き、ディアスポラの日本人と密会し、常に携帯の充電スポットを探して彷徨う、ちょっと混乱してるけど憎めないヤツ。それは、彼が構想する漫画の主人公の姿とも重なっていた。 今回の国際AIRプログラムは、100日間を移動期と制作期の2フェーズに分けた。移動についてアーティストの思考を促すのが目的だったが、アーロンはそれに積極的に応じた。日本へ渡航ができないかわりに、ヨーロッパ圏内で日本人移住者が最も多いデュッセルドルフ、パリ、ロンドンの3つの都市を訪れ日本人にインタビューするプランを立て、その体験を元にした漫画の制作に着手し、さらにセグウェイロボットLoomoを自分のアシスタント兼代理人として札幌に送って滞在させるという、複数メディアを使うプロポーザルを考えた。ビデオ、彫刻、執筆、デザイン、キュレーションなどマルチメディアで活躍する作家らしい提案だったが、同時にその先のカオスも予見された。 100日間の前半は、都市の移動とインタビューにほぼ費やされた。旅にアクシデントはつきものだが、アーロンの旅も順風満帆というわけにはいかなかった。まず当初計画していた、ロボットを札幌に送るというアイデアは、コスト面、ソフト面、輸送面等々の問題が立ちはだかり、やむなく断念せざるを得なくなった。ロックダウンによるフライトのキャンセル、国境を越える度のPCR検査、またイギリスのEU完全離脱といった政治にも翻弄された。移動と滞在先探しとアポ取りしながらの天神山とのオンラインミーティングも、8時間の時差やairbnbのWiFi環境が理由で変更されることもしばしばだった。それでも本人はポジティブだった。ガラガラの列車、ひと気のない広場、特殊な会話…、ロックダウンの都市の異様な日常を旅人の視点で眺め、日々や心情を書き綴った半自伝的エッセイは、この奇妙な時代の数少ない旅人のモノローグでもある。そうして、新しい世界を一から創造する漫画というメディアを使って、コロナの時代にもうひとつ別の世界をつくりだそうとした。 ロボットを諦めたことで、後半は漫画制作の構想に全力投入し、北海道の漫画家をリサーチして予告編の制作を試みた。さらに天神山の畳の茶室で展覧会を行うことにした。そこから札幌のスタッフとアーロンの共同作業が本格化した。パリにいるアーロンとオンラインで指示を受け完成したインスタレーションは、旅のエッセイを朗読するスピーカー、スピーカーを不安定に駆動させるソーラーパネル、漫画のプランや書きかけのスケッチを表示するKindleと、かわいいキャラクターのコンセント、そしてヘンリー・ミラーがパリでの放蕩時代に書き上げた『北回帰線』から抜粋した一文を印刷した名刺が、空間に配置された。テクノロジー、漫画、カワイイ、名刺といった日本のステレオタイプが巧妙に鎮座した「わび」の空間であり、同時に次巻へ続くプロローグを予感させた。 アーロン・マクラフリンの100日間は、常に移動しつ続け、変わり続けるレジデンスだった。先の見えない世界で、新しい世界を創造するための旅をした。漫画のプロジェクトは継続し、日本のディアスポラとの対話のエッセンスもその中に登場する予定だという。そしていつかシベリア鉄道に乗って、完成した漫画を札幌へ届けることを約束している。

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