[Archive]2020 Annual Report 交換プログラム(台湾、韓国)

未分類 2021年5月1日

[プログラムリポート]交換AIR White Letters / Barim(光州、韓国)(文化庁:なかなかたどりつかないけど)作成:坂口千秋

White Letters

韓国光州市を拠点におくBarimとさっぽろ天神山アートスタジオの交換プログラムは、2019年にスタートし、共同プロジェクトのためのリサーチを終えて2020年にはアーティストの交換プログラムへと発展する予定だった。しかしCovid-19の影響で、今年のプログラムをすべてオンラインで行うことになった。2020年度の招聘型AIRプログラムのテーマ「なかなかたどりつかないけど」を巡って、Barim代表のカン・ミンヒョンと天神山と対話を重ね、将来のレジデンスのためのプレレジデンシー「white letters」という公募企画が誕生した。韓国拠点のアーティストから50件もの応募が集まり、その中からジョン・ユジンとバン・ジェハの2人はが選出され、60日間のオンラインレジデンスに参加した。

彫刻を中心にスケールの大きなインスタレーションを手がけてきたジョン・ユジンは、コロナ以降、三次元の彫刻を非物理的な空間にどう成り立たせるかで悩んでいた。オンライン化されたデジタルデータは、果たして物理的な質量を持つ彫刻の代替となり得るのか? というテーマのもと、オンライン開催となった札幌雪まつりについてリサーチし、また巨大雪像の歴史や背景について雪祭りの関係者にインタビューした。もうひとつ、物質性の反対にある非物質、オンラインにしか存在しないブロックチェーンと暗号通貨に興味を持った。ビットコインは、通貨市場初の純粋に仮想化された通貨であり、非物質でありながらリアルの代用ではなく、オリジナルの概念もある。仮想世界を生きる私たちの身体性や、オリジナルとコピーの関係について考え、現実が仮想空間をコピーするアイデアについて考えた。

バン・ジェハは、「移動」と「距離」というテーマに対して、パンデミックの前も後も変わらない遠い国、北朝鮮との距離について考えた。彼女が試作した「韓国脱出ナンバーワン」は、人生に破れたAが韓国を脱出し北朝鮮を目指すPRGゲームで、中国から鴨緑江・豆満江を渡る、海を渡る、排水路を泳ぐ、トンネルを掘る、ブローカーを通じて第三国の国籍を取得して渡るなど、実際にあった脱北事件などを参考にしている。主人公はどの方法をとっても失敗し、北朝鮮にはたどり着けない。多様な失敗の形によって北朝鮮の「遠さ」を描き出し、無関心、同情、敵対心、冷戦のイデオロギーで硬直した北朝鮮への意識に対して、美術を通して感覚の再構築を試みた。さらに国境付近で北朝鮮までの「距離」をレーザーで実際に測る、商品を流通させるといった可能性も探り、遠い国の近さの可視化にも挑んだ。「感染による隔離は、逆に我々が感染で繋がれるという意味でもある」という彼女の言葉は印象的である。

期間中は、毎月曜のオンラインミーティングと、冬季間の毎水曜に滞在アーティストたちが集う水曜シェアリングを通じてリサーチを進め、その経過をもとに、3月13日、オンライン・トークイベント「White Letters」Barim/天神山交換プログラム成果発表が開催され、2人がプレゼンテーションを行った。ユジンは東大生でビットコインのトレーダーであるジョン・ギウン氏をゲストに招き、ブロックチェーンの世界についてレクチャーパフォーマンスを行った。ジェハは自作ゲームのデモンストレーションを展開。次いで2人による作品解説と、将来の札幌でのレジデンスをイメージしたトレーラーが公開され、日韓約30名の視聴者からは質問も活発に飛び交った。このほかプログラムの記録として、デジタル共有ツールnotionを用いて今回作成した画像や動画、テキストなどを公開している。

バーチャルとリアル、2つの世界をつなぐ方法を模索するかわりに、プラットフォームをオンライン1本に絞った「White Letters」は、現在の社会の状況に批評的な眼差しを向け、さらにアーティストの創作活動、レジデンスや展覧会という仕組みまでも批評的に捉え直す機会となった。なんのために展覧会を行うのか。なんのためにアーティストは移動するのか。コロナが社会の問題を可視化し、当たり前と思われていた価値観が揺らぐなかで、アートもその例外ではない。そしてWhite Lettersの人々は、そのゆらぎにすばやく反応したのである。

<関連リンク集>

Barimアートスペース(韓国、光州)webサイト

ジョン・ユジン_今年の冬の7つのAIR_Artists in Residence programs in 2020-2021 winter 交換AIRプログラム韓国(文化庁:なかなかたどりつかないけど)

バン・ジェハ_今年の冬の7つのAIR_Artists in Residence programs in 2020-2021 winter 交換AIRプログラム韓国(文化庁:なかなかたどりつかないけど)


White Letters 交換AIRプログラム Barim(光州、韓国)| White Letters: Exchange Programme with Barim (Gwangju, South Korea) 

White Letters トーク・イベント(オンライン)Barim/天神山交換プログラムプログラム成果発表

トーク・イベント動画記録(日本語字幕入り) 

 

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菅野 麻衣子_冬の7つのAIR_Artists in Residence programs in 2020-2021 winter

https://tmblr.co/Zc70HdZKsON9Om00


アーティスト・トーク!!台湾台東の人々とともに現地での様子をお話しします。2020年12月22日(火)19:00-(最大2h/21:00まで)


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